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●長期投資とは「時間にこだわらない投資」
岡本氏のいままでの話から考えていくと、この連載のテーマである「長期投資」という考え方も、三十代と六十代では違ってくるはずだ。三十代はまだ五十年生きるだろうし、六十代は長く生きる方で三十年くらい。何をもって長期投資、というのか。岡本氏の考える長期投資について詳しく話を聞いてみた。するとまた岡本氏独特の答えが返ってきた。
「実は、長期投資ってあんまり正しい表現じゃないと思っているのです」と。
これには、やはりそうなのか、と感じた。
「長期投資」という言葉はあまりに漠然としていて分かりにくい。だからこそ、このような「長期投資とは何か」というテーマで、運用のプロに話を聞いて回っているのだ。岡本氏の答えを聞いて少し嬉しくなり、さらに質問を続けた。
正しい表現はなにか、と尋ねてみた。
するとこんな答えが返って来た。
「江戸時代に井原西鶴の書いた『日本永代蔵』という本があります。この永代っていう意味は、時間にこだわらないという意味です。永く、代々、蔵が続くように、という意味。だから、時間にこだわらない投資、というほうが私は近いと思います。個人投資家は機関投資家ではないのだから、短期で儲けなきゃならない必然性が全くない。それなのに「すぐ儲けたい」と、わざわざ難しいことばかりやりたがる。これは違いますね。安心してのんびりリラックス投資、これが私の考える投資です」
時間にこだわらない投資。リラックス投資。
なるほど、これなら、何歳の投資家にでも受け入れられる。
岡本氏の話を聞いていると、何にも縛られないということが、投資をするにあたってとても重要である、というメッセージが伝わってくる。それは、おそらく、岡本氏が運用をやっていた時に、そういったさまざまな縛りが効率を妨げる原因になることが、しばしばあったからではないか、と推察する。
そんな話をしながら、岡本氏は一冊の本を取り出し見せてくれた。
投資レーダー社の月足30年のチャートブックだった。パラパラとページをめくって目当ての銘柄を探し出し、手を止めた。
「例えば、これはキヤノンという会社の30年のチャートです」
見てみると、上下に揺れを見せながらも、緩やかな右肩あがりの波線がそこにあった。とても美しいチャートだ。
「これを見るとバブル崩壊ってなかったみたいでしょ」
たしかにこの銘柄の30年チャートにはバブル崩壊の痕跡を見つけることができない。
岡本氏はチャートの出発点を指差して説明する。
「30年前の株価は171円です。それが今は6400円、約37倍にもなっています。最初の時点で、キヤノンの株を500万円買って持っていたら、37倍ですから、1億8千5百万円にもなっています。さらに配当金も貰えたはずだからね。凄い金額でしょう」
「これが長期投資、ですよ」と岡本さんは微笑む。
「私はそんなにチャート分析を重視する方ではありません。しかし、キヤノンと同じように30年ずっと株価が上がってきている会社は日本に結構あるんですよ。HOYAとか、スズキ、信越化学。これを見ていると夢が膨らむんです」
しかし、これは簡単ではない。一見、キャノンの株価は30年間順調な右肩あがりに見えるが、小さなヤマタニを丁寧に見ていくと、261円→168円、832円→278円、909円→413円、1360円→800円、2547円→1200円と、上昇しては半値になり、また上値を超え、しばらくしたらまた、半値になり・・・というような騰落を繰り返し、繰り返しおこしているのだ。
「この右肩上がりのチャートは、現在の株価にくるまでに、何度も暴落しています。長期投資の本当のメリットとは、私たちがこの暴落に耐えてこそ初めて得られるものなのです。それに耐えられた人のみが37倍というものを手にする事ができるのです」
でも、やはり、多くの人はそれに耐えることができない。
「普通、倍になったら嬉しくて売ってしまうし、半値になったら怖くて売ってしまう。自分が勤めている会社の株だとか、よほど思い入れがある会社の株でなければ持ち続けられない。これがハイリスク・ハイリターンという事ですよ」と言う。
後から振り返ってみれば簡単なように見えるのだけれど、実際、30年も持ち続けることは至難の業だろう。
「長期投資は決して楽なものじゃないんです。理論的に正しい事を、確信をもって、長期にわたってぶれないで行う、いうこと。これは根性がないととても続けられません。実は長期投資には短期投資が必要とするよりもはるかに大きなガッツが必要なんです。だから、クラブ・インベストライフで仲間と一緒にがんばるんです」
長期投資なんて、ただ株を長く持っているだけでしょ、なんて思ったらとんでもない。長期投資とは最大級の精神力、忍耐力、が必要な投資法なのだ。
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