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講師紹介


川田茂雄
(かわだ・しげお)

1945年、東京都生まれ。都立高校卒業後、某カメラメーカーに入社。製造部門、消費者相談室、各サービスセンター所長を務め、多くのクレームを解決する中で消費者問題の大家とも対決、以後、友好関係を築く。2002年、退社。現在「クレーム処理研究会」を主宰、各企業へのCS指導、講演活動を行なっている。


   第17回  うるさ型クレーム  
 
■将を射んと欲せばまず犬を射よ

 クレーム処理でお客様宅にお伺いすることは多いのですが、犬を飼っている家もとても多いですね。家に近づいただけで狂ったように吼えまくる犬もいれば、部屋の中に入ってもう座っているのに、まだ吼え続ける犬もいます。

 私は、犬が嫌いというわけではないのですが、犬を部屋の中に上げて、毛だらけになって一緒に生活しているというのはなかなかなじめません。これは、あるカメラ店にクレーム処理に行った時の話です。

 そのお店はお客様からカメラの修理を依頼され、カメラを当社に持ち込み修理をしたのですがうまく直っていないということで、お客様から文句を言われて当社に苦情を言ってきたのです。
 前任者から、この店はうるさ型だから注意した方がいいよと言われておりましたが、なんだかんだと時々問題が起り、そのたびに責任者が呼びつけられていたようでした。

 真夏の太陽がぎらぎら輝く午後、私はそのカメラ店を訪ねました。地方都市の小さなカメラ店は駅から続く古いアーケードのはずれにありました。「まいどお!○○カメラの川田です。お世話になりまーす」と元気よくお店に入ったのはいいのですが、途端に、毛むくじゃらの犬が騒がしく吼えながら転がるように出迎えてくれました。「こちとら、クレーム処理に来て緊張してるんだから、ギャンギャン吼えるな!」と、心の中では思っても、社長の大切なペットだと思うと、おもわずその犬にまで微笑み、しゃがみこんで「よしよしよし!」と犬にも気を使います。
 「ああ、○○カメラさん?ご苦労さん、どうぞ、どうぞ」と奥さんが出てきて、奥へ入れと案内してくれました。店の奥につながる六畳ほどの和室に上がり、帳簿の整理をしていた社長に挨拶をします。

 さっきの犬は、私の後を吼えながらついてきて座敷へ上がり、社長の膝の上にちょこんと乗ってしまいました。
 修理の不手際を社長に丁寧にお詫びして、お客様にはこれをお渡し願いたいと販促品グッズなどを出していると、思い出したように犬がウー、ワン!と吼えます。そのうちに外が突然暗くなったのが部屋の中にいても解かりました。夕立がきそうなのです。
 それをよそに、社長は、“販売店の責任”の話、“メーカーの責任”の話などをとくとくとしゃべり始めています。「わしは、わずかでも修理代金のマージンを取る限り、販売店としての責任を感じている。何でもかんでもメーカーに押し付けて逃げるようなことはしない。それだからこそ、お客様の立場に立ってあんた方メーカーにうるさく言うが、お客様のクレームはわしがきちっと解決する。あんた方に頭を下げさせることはしない。その代わり、メーカーとしても責任分担をきちっとしてもらわないとな」
などと、わかったようなお説教をするので、言われるとおりでございます。よろしくお願いしますと、頭を下げて話を聞いています。

 そのうち本格的に夕立がやってきました。パラパラと激しくアーケードの屋根をたたく音が聞こえてきます。遠くで雷が鳴り出しました。すると、社長の膝で寝ていた犬が雷におびえて激しく吼え出しました。ゴロゴロと遠雷がなるたびに不安そうに吼え、そのうちたまらなくなって社長の膝をおり、部屋の中から店先までうろうろと走り回ります。店の外はアーケードが切れているのでザーザーと雨が降っているのが見えます。
 もう犬は、狂ったように吼えまくります。そのうち、ピカーッ!と稲妻が走ったかと思うと、バリバリバリと雷が近くに落ちたような音がしました。犬は、もう、一目散に座敷の方に飛んできて、こともあろうか私の膝の上にちょこんと座ってしまったのです。

 驚いたのは、社長と奥さん。「ジロっ!ジロっ!何処へ座ってんの!こっちでしょう!」と懸命に呼びますが、犬は、私の膝の上でがたがた震えていて、社長の方へ行こうとはしません。かわいそうなのは、社長です。かわいがっている愛犬に肝心のところで裏切られて、それもクレームでさっきまでバッタみたいに謝っていた痩せ男に愛犬を取られてしまい、どうにも立場がありません。
 奥さんも、社長も必死にジロを呼ぶが犬は正直なもの、私の膝から動こうとはしません。私は、ここぞとばかりに、「よしよし、ジロ、ジロ」と背中をなぜたり、のどをなでたり犬にゴマをすります。

 この一件で私は、社長の絶大なる信頼を勝ち得ることになったのです。まあ、肝心の時に愛犬に裏切られた社長としては、私のことを認めざるを得なかったのでしょう。犬が好きなやつに悪人はいないということで、これ以降、何か問題があると直ぐにご指名で電話が来ることになりました。

 私もこのとき以来、カバンの中に愛犬用のジャーキーを忍ばせることになったのです。クレーム処理に行く度に、犬がいれば内緒で食わせるものだから直ぐになつき、2度目には飛んできてまつわりつく始末。“将を射んと欲すればまず犬を射よ”の例えは、この一件が教えてくれたものでした。




 

 



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