1度も事故に会わずに長年特定のカメラを使い続けてきますと、そのカメラやメーカーに寄せる信頼というのは絶対のものになり、神様が作ったカメラのような錯覚に陥ってしまいます。きっと、そんなところに”○○○神話”などという言葉が生まれてくるのでしょう。
そんなある日、突然、神様が作ったはずのカメラが壊れて、写真が撮れていなかったとなりますと、それはもう大変です。
信頼を裏切られたことに対する怒りが込み上げてきて、可愛いさ余って憎さ百倍、気が狂ったように怒り出します。
フィルムカメラの最大の欠点は「撮ったつもりの写真が撮れていなかった」という事故があるのですが、このようなデメリット表示は何処にも書かれていません。カタログにも使用説明書にも何処にも書かれていないのです。「こういう基本的な事は、敢えて言わなくてもお解かりになるでしょう」という勝手なスタンスで、メーカーはデメリット表示をしないのです。
■コンパクトカメラのフィルム給送不良事故
「書留・速達・社長親展」で1通の手紙とコンパクトカメラが本社に送りつけられ、手紙には次のようなことが書かれていました。
40年ぶりの高校のクラス会で、昔の恋人から「あなた昔から写真が上手だから、今日は写真班をやってよ!」と言われ、40年ぶりに心ときめく想いでパチパチと写真を撮りまくった。
このクラス会の為にと発売されたばかりの新型コンパクトカメラを購入し、それはもうあっちへ飛び、こっちへしゃがみ込んで、みんなを笑わせながら楽しそうな顔をパチパチと5本も撮った。
年老いた先生からも、「あなた相変わらず写真を撮るのがお上手ね!」なんて言われて益々ハッスルして撮りまくった。
しかし、帰って来て現像に出したら、5本中、3本が何も写っていない。最初の数コマだけ写っているがあとは、ス抜け。何も写っていない。
みんなに「貴方は撮り方がうまいわ」だの、「プロ顔負けね」などとおだてられて夢中で撮りまくったのに、何も写っていない。
俺は、まるでピエロだ!一体どうしてくれるんだ。みんなに送る写真が無い。社長が出てきて謝れ!
…と、こういう内容でした。消費者相談室に回されてきたこの案件を引きうけた私は、直ぐにお客様へ電話をしました。至急事故調査をしてご報告に伺いますと。
このとき、相手は、 「あなたはどういう立場の方ですか?私は、社長に手紙を書いているんですよ。何故社長が出て来ないんですか?」 と執拗に言われましたが、私は「消費者相談室の主任ですが、今回、社長から『お客様のお話をよく伺って、問題点をきちっと解決するように』と直々に言われております」と答え了解をお願いしました。(そんなこと社長からは言われていないのですがね)
私が「主任です」と言った途端に、何か不満そうな雰囲気が電話の先から伝わってきましたが、私は、自信を持って「きちっと調査して報告に上がりますので少しお時間を下さい」とお願いしました。
事故解析は技術部門がやるのですが、早く答えが欲しいので、私は自分で問題点の解析に乗り出しました。5本中3本が事故を起こしたのですから事故の確率は高く、直ぐにでも答えは出るはず。しかし、何度やってもカメラに異常はなく、きちんとフィルムは送られ撮影できます。
それでも、QC手法の”魚の骨”を書いて、考えられる問題点を1つずつ、つぶして行き、遂にフィルムのベロを制限マークより長く出し過ぎると事故が起きることを見つけました。
検証の過程をフローチャートに書いてお客様宅を訪問、新品のフィルムを何本も使って説明しました。すると「これは小学校の理科より面白い!みんな来てみろ!」とお孫さんまで呼び集めて私の説明を聞いてくれました」
しかし、お客様はこれで納得したわけではなありません。「君の説明は良くわかったが、自分の使い方が悪かったとは言わせない。これは、欠陥だから技術者は必ず2型で改良するだろう。そしたらもう1台買ってやる。このカメラは記念に戸棚にしまって置く」 と言うのだ。
「お使いにならないのでしたらお引取りしますが?」と言っても「金に困っているわけではないから引きとらなくてもいい」と言います。
クレーム処理はこれで終わったのですが、今まで信頼していたカメラに裏切られた悔しさを払拭する事は簡単には出来ません。「社長が出てきて謝れ!」、「詫び状をだせ!」というのは、まさに、こんなケースなのです。
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