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講師紹介


川田茂雄
(かわだ・しげお)

1945年、東京都生まれ。都立高校卒業後、某カメラメーカーに入社。製造部門、消費者相談室、各サービスセンター所長を務め、多くのクレームを解決する中で消費者問題の大家とも対決、以後、友好関係を築く。2002年、退社。現在「クレーム処理研究会」を主宰、各企業へのCS指導、講演活動を行なっている。


   第7回  クレームの形態区分 「神経質型2」  
 

■手に負えなくなったクレームを引き受ける

 会議は、誰がこのクレーム処理をやるかでもめていましたが、誰も火中の栗を拾う者はいませんでした。
 私は、役職定年で現役を離れて2年が経っているし、この時、既に早期退職を決意していたこともあり、今まで「百戦百勝」を誇ってきたクレーム処理実績に最後で味噌をつけるようなこともしたくありませんでした。
 しかし、誰も出来ないというのであれば、まあ、「最後の華」と思って引き受けるしかない。引き受けるに当っては全権を自分に任せてもらう事。色々調べる事もあるから全員が協力をしてくれる事を約束させて最後のクレーム処理に掛かかりました。


■顧客に第一報

 何しろ最後の砦であるべきお客様相談室からクレームを引き継ぐのだから並大抵ではありません。相手だって、「一体どうなってるんだ、おまえは誰だ?」ということになります。このケースでは当然、相談談室長が出て来て話をまとめるべきところなのですから。

 今までの資料をもらって長岡京に住む顧客宅に電話をするが誰も出ない。何度かかけるが不在である。宅急便の伝票に携帯の電話番号が書いてあったのでそれにも電話するがつながらない。

 結局、夜の10時過ぎに、携帯につながった。すると相手は 「あんたは誰だ!何故この電話を知っている?こんな遅くに、もう、寝たところだ」 と寝入り端を起こされて怒っているのです。今までのいきさつを簡単に説明させていただき、私が責任をもって解決させていただくので、少し時間が欲しい旨伝えて了解を得ました。当人は、友人と今、九州まで撮影旅行に来ているところだと言っていました。


■レンズゴミの検証と特良品の選別

 クレーム処理をやるには、まず徹底的に技術問題を調べ上げることです。ユーザーに何か質問されて即答出来無ければそれで、話は終わりです。「わかる奴を連れて来い!」と言われてしまう。

 そこで、設計に頼んで、何枚もあるレンズの表面と裏側についたゴミの見かけの大きさが何倍になるのかを全て計算してもらいました。レンズを分解して中にあるゴミの実際の大きさを工場顕微鏡で測定する。そして、商品倉庫に行って、出来るだけゴミの無いレンズを選別してもらう。

 また、実際のレンズ製造工程はどうなっているのかを自分の目で確認するために、栃木の工場まで出掛けて、レンズ研摩工程や組み立て調整工程をしっかりと見てくる。

 これだけクリーンな環境で作っているにも関わらず、未だにレンズ内にごみがあるというのは、構造上の問題もあるし、とても難しい技術である事がよく分かりました。帰りには、那須塩原の駅で鮎の寒露煮をお土産に買い、顧客宅訪問時の責め道具としました。

 あとは、出来るだけ綺麗なレンズを選びました。ゴミ、泡、絞り形状、羽根の色具合などの問題が複合的に組み合わさるから、完璧なレンズを選ぶというのは、まず、不可能に近いのですが、 それでも、特良品レンズを3本選び、この中からお客さんに選んでもらう事にしました。


■顧客との対決

 3月も終りに近い頃、交換用レンズ3本と栃木のお土産を持って、京都のホテルまで出掛けました。自宅にお邪魔したいと申し入れたのだが、来てもらっても何もおかまい出来ないからとホテルのロビーを指定してきたのです。

 約束の時間30分前にロビーに行くがまだ来ている様子はありませんでした。何人かの客がロビーのソファーに座ってはいるのだが、本人を感じさせる人物は見当たらない。こちらは、メーカー名が大きく入った紙袋を持っているのだから、本人がいれば、直ぐにでも声を掛けてくるだろうと思う。

 暫く、離れたところから様子を見ていたが、新たに人がやってくることも無く約束の時間が過ぎました。おかしい。クレーム処理で時間に遅れるお客様は滅多にいないのです。再度ソファーの方へ行き座っている人達を一人づつ確かめて行くと、なんと、テーブルの上にレンズを乗せている人物がいるではありませんか。だいぶ前からそこにいた人でした。さっき巡回した時にはレンズなど載せてはいなかったのです。なかなかの曲者です。慌てて声を掛けて本人である事を確認しました。

 以後は、レンズの構造や性能上の問題などを資料を示しながら丁寧に説明して行き、完璧なレンズは未だ作れないことを了解してもらいました。最後に持参した3本のレンズから1番良いものを選んでいただき、鮎のお土産を渡して問題は解決しました。

 この間、3時間。話を聞けば、定年退職した途端に奥様に逃げられ、子供達はそれぞれ独立していて話し相手もなく、40年ぶりにカメラをやりだしたとのこと。孤独に耐えかねて、つけた「神経質型」のクレームのようだが、あんなに神経質なら奥様だって逃げ出すのは無理はないなと、自分も反省させられる一件でした。

 



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