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講師紹介


川田茂雄
(かわだ・しげお)

1945年、東京都生まれ。都立高校卒業後、某カメラメーカーに入社。製造部門、消費者相談室、各サービスセンター所長を務め、多くのクレームを解決する中で消費者問題の大家とも対決、以後、友好関係を築く。2002年、退社。現在「クレーム処理研究会」を主宰、各企業へのCS指導、講演活動を行なっている。


   第9回  クレームの形態区分 「電話魔型2」  
 

■電話魔X氏の素性

 X氏は、腕の良い旋盤工とのことです。仕事の話になると口角泡を飛ばしてしゃべり出します。機械加工については私も色々知っているので話はよく合います。しかし、根が純粋なX氏は、不正が許せないタイプで、会社ではなにかにつけて社長とも専務とも話が合わないのだとも言っていました。

 そのストレスを解消しているのが写真の趣味らしく、毎朝、仕事に行く前に海岸に出て写 真を撮り、仕事が終わるとまた海岸で写真を撮っているというのです。
 毎日海岸で写真を撮るのだから、たちまち潮風にさらされてカメラは錆びてくるし、目に見えないような小さな砂が沢山カメラに入ってしまいます。ママチャリの前カゴに放り込んでいるのだから、カメラにかかる振動も大きい。
 使ったあとはいくら丁寧に拭き上げているとは言っても、小さな砂はどんどんカメラやレンズの中に入り込み、ジャリジャリにしてしまいます。これが原因で何度修理しても短期間のうちに故障してしまうのでした。

 この日は今までの事故の原因を色々説明し、使い方をもっと丁寧にして欲しいことと、掃除の仕方も教えて、実際にやってもらいました。そして、もうひとつ重要なことである、長電話はなんとかして欲しいとこちらの事情を説明して一応の了解を得ました。
 まあ、これで暫くは落ちつくとは思うのですが、1度だけでは完全ではありません。何かもう一手、手をかけなければと考えながら帰路についた。


■2度目の訪問

 あれから1ヶ月後、まだ夏の真っ盛りでしたが、金曜日の夜、暑くてなかなか眠れないこともあり、急に思いついてX氏の所へ2度目の攻撃を仕掛ける事にしました。
 海老名市から江ノ島までは30キロ以上ありますが、夜中に歩いて海まで行こうと、何も持たずにふらりと歩き出しました。R246号線から藤沢街道へ入り、江ノ島まではほぼ一本道です。
 夜中の街道とはいえ、車も案外走っているし、何よりもコンビニが沢山あるので気がまぎれます。だいぶ歩いて、疲れが出たころ、コンビニに入りおでんを買いました。駐車場の車止めに座って食べる夏のおでんというのもなかなかおつなものです。でも、なんで今頃おでんなんかやっているのか不思議に思いました。そのうち、疲れがどっと出て、知らず知らずのうちに船を漕ぎ出したようでした。
 暫くうとうとした後、再び歩き出したのだが、前方に見える道路標識の案内がおかしい?進行方向には”町田”と書いてあるのです。「あれ、なんだこの標識は、間違ってんじゃねえの?」とおまわりさんを呼びたくなったが、直ぐに、「しまった!方向が反対だ」と、もと来た道を逆戻りしていたことに気づきました。
  往復1000メートルくらい損をしました。疲れが足に溜まってきて、あちこちだるく足首やヒザが痛くなってくる。藤沢市内に入ると急に膝の痛みが強くなってきたので大事を取って何度も休む。
 東の空が白む頃には、境川に沿って海へと下り膝を騙し騙し歩く。そんなわけですっかり明るくなった頃にX氏宅へ到着しました。川沿いの垣根からX氏宅を覗くと、お母様が起きていらして庭の手入れをしている。「おはようございます、川田です」と大きな声で挨拶をすると、突然の訪問者に驚いていましたが、直ぐに私だと気づいてくれました。あわてて、X氏の名を呼び、寝ぼけ眼で起きてきたX氏。「川田さんこんなに早くどうしたの?なんで来たの?」と聞くから、「海老名から歩いて来たんよ、あなたに会いたくて」と言うと、「ええ、歩いてええ??」と。
 家に上がってお茶を飲んで行けというのを丁重に断り、その日はそのまま、海岸まで歩いて一休み。帰りは江ノ電で帰りました。
 これで、2回目の訪問は完了。首尾は上々であった。これ以後、X氏が長電話をしてくることは一切なくなり、何か用があれば私の自宅に電話が来るようになった。これをいやがるとどうにもならないが、まあ、仲良くするためには通らなければならない道、受けて立つしかありません。


■X氏「手紙魔」に変身

 電話魔の足を洗ったX氏がそれからどうなったかというと、今度は、「手紙魔」に変身したのです。毎日のように、”おはようございます”、”こんにちは”、”こんばんは”という書き出しでハガキや手紙が送られて来る。差出時間まできちんと書いてあります。
 自分が撮った写真を次々と送って来る。私は、「もらった手紙は倍返し」を心掛けているので、負けずに返信を書いた。その数なんと年間400枚以上。これには、いささか私も根負けして、休戦協定を申し入れることになりましたが、その頃には、本当に心からのお客様になって戴き、会社をやめた現在でも相変わらずのおつきあいが続いているのです。

 



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