マスメディアの場合。「事前にリストなし」とはその特性をよくいったもんで、メッセージを発する企業からは相手はまったく見えません。だから、その後のフォローアップもデータベースに基づくのではなくて、もう一度同じメディアと投下するしか方法はありません。企業から見えない相手ということはその相手によってもその企業の存在は希薄である可能性が高いともいえます。
「事前にリストあり」の中ではまず「新規客」と「既存客」とに分類されています。
当然、新規客の方がその企業との関係は薄いです。
さらに、「一般のDB」と「雑誌の購読者」リストはどうでしょうか?どちらもその企業と接触があるとは限りませんが、「一般のDB」とはここで実際に使ったのは、東京商工リサーチ(TSR)の企業情報です。雑誌購読者というのは、日経BP社が行っている読者向けのDMサービスです。TSRはマスメディアほどではないですが、しかしその企業との関係は希薄です。一般客のようなものです。日経BPは何かしらITに興味を持っている。しかもすでに定期購読をしているので何かしら反応をした経験を持つ人です。つまり、TSRよりはどうもその企業との関係は深いように思えます。
前者をコンパイルド(編集された)リスト、後者をレスポンシブ(反応経験者)リストと言います。また、これら二つをあわせて外部リスト、既存客のことを内部リストと区分をします。前回私が「雑誌購読者は後で…」としたのには、このようにリストの種類が異なるからです。
また、リスト種別の欄での順序もちゃんと意味があって書かれてあります。
ダイレクトマーケティングの世界には(正確にいうと理論先行の人の中には)、「マスメディアなんて要らない」という人がいますが、私は現場の人間なのでそうは言いません。マスメディアは上の表のように「事前にリストのないリスト」という捉え方をしています。こうした区分はとても重要です。上の表はそれぞれリストの特性が異なるため、それを知っておくと、
- ある程度レスポンス率の想定を事前にすることができる。
- それぞれのリストの特性を活かしたプロモーション展開ができる。
といった利点が生まれます。それぞれのリストはタイプが異なるので、補完をしあうこともあります。
■CRMのウソ、ホント
どうしてこのように補完しあう必要があるのでしょうか?
単純に表を見る限りでは、外部リストなど使うべきではありません。CRMというものが言われるのもこれが大きな前提であり、根拠となっています。新しい顧客をつかむためには、とても大きな労力を必要とすることが、このIT系イベント会社の例からも手に取るように分かります。
しかし、前回でも述べましたように、人の気持ちというものはとても複雑。必ずしも理論どおりにはいきません。顧客に注視するのは手堅いですが、しかしそればかりでいると必ずジリ貧になっていきます。
顧客は満足していれば次も買う、というのがCRMの言うところです。確かにその傾向はあります。ところが満足していてもいつか買わなくなる可能性があるのが人の心というものです。
「なんかそろそろ飽きてきたなあ」
「あ〜、今日はあっちの方が良さそう」
人はそのお店に満足していたとしても、目移りしてしまいます。また、顧客というのは、いつかは年を取ります。
だから大きなデータベースを持っている会社でも、新規顧客の獲得は怠らないわけです。
さらに、CRMの一番厄介なことは、自分のお店で買ってない人のことがよくわからない点です。自分のお店でそのお客様は毎月約5万円購入してくれているとします。しかしそのお客様は隣のお店では10万円購入しているかもしれません。だから、いつ自分のところがゼロになるとも限らないわけです。
とするとCRMというのはどのように考えればいいのでしょうか? このIT系イベント会社の場合も経験的に、既存客だけを相手にしていてはジリ貧になることを知っているからこそ、常に新しいお客さんを求めていました。
■買うまでには時間がかかる、という前提
さて、CRMでいうところの一度獲得した顧客を大切にする、とはいえ、やはり新しい顧客をつかむのが多くの企業に必要とされていることだと思います。ここで、企業はこの矛盾に取り組まなければならなくなります。
データベース担当者に話をうかがうと、確かに昔から言われているパレートの法則(20%の顧客が80%の利益を生み出す)というのは成り立つようです。しかし、今日のように変化のスピードが激しい時代には、企業側は次から次へと新商品を出さなければならないという宿命があります。
■CRMは必要だけれども、それだけではダメ
繰り返しますが、これは大きな矛盾です。しかしこの矛盾に取り組まなければならない。CRMを導入した企業の70%が失敗しているというのは、まさにこの常に新しい水を補充しなければならない、という宿命をないがしろにしまっているからなのでしょう。
ところで、企業が顧客を囲い込んでしまっているということは、新しい自社の商品に飛びついてくれるまでに時間がかかる、ということになります。
ある自動車メーカーからのDMは、一度資料請求をすると何年も続けてきます。おそらく経験的に、いつかは鞍替えすることを知っているのでしょう。
私もある食品メーカーのプロモーションで、マスメディアやその他のキャンペーンで獲得したデータを2年も使うことができました。その結果、そのメーカーは確実にシェアをあげていきました。
これまで、多くの企業のマーケティングは「買ってくれるはず」ということが大前提でした。この場合、メッセージは到達することが重要となります。何かしら刺激をされれば人は買ってくれるわけです。
しかし今、購買行動にはとても慎重になってきています。例えばパソコン。パソコンはよく「○○製のPCはいい、○○製のPCはよくない」と言いますが、実際に2つ並べてどちらがいいのか?比較検討してから買った、という人はいません。購入するまでにはあれこれとパンフレットをながめたりで数ヶ月かかることもあります。
最近では食品でさえ充分な検討が必要とされる時代になってきています。ICタグの導入により正しく生産者の情報を消費者に見せるような動きにもなっています。そうなると買う側の態度はどうなるのでしょうか?
まず、モノを買うのに勉強しなければいけなくなります。しかし、最初そのものを買うのにどう勉強をすればいいのかは分かりませんし、情報の洪水の中では、勉強ができる量にも限界があります。
情報の洪水にある、ということは1度買ったものであっても忘れてしまうこともあります。1度資料請求をしたものでも忘れてしまうこともあります。「こんなの勝手に送ってくるな!」と、あるキャンペーンに応募した人が、すっかり自分が応募したことを忘れてクレームを入れてきた、という話しもあります。
顧客との関係というのは1回限りのコミュニケーションではつくれません。また、先の自動車メーカーのように、衝動買いをねらうのではなくて、じっくりと考えて買ってもらうことを前提としなければなりません。
そうすると、ここで「時系列で考える」必要が出てきます。
しかし、こうして事例を見てみると、ふと思うことがあります。どうしても数字の話しやら理屈になりがち。何か作戦を立てるにあたっては、もっとワクワク、ドキドキ感だって必要。この時系列で考える、というのはとても奥深いのですが、その前に、ちょっと寄り道をして、次回はこのワクワク感、ドキドキ感について、お話します。
人の心はとても複雑です。理論だけでは済まないところがマーケティングのおもしろさでもあります。
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