携帯電話、たった数センチの端末がもたらす可能性はとても大きい。i−modeに始まる単なる情報提供&課金といったことではなくて、大きなトピックは2つある。
ひとつは映像が送れること。もうひとつは決裁端末としての可能性である。
この小さな端末がひとびとの生活スタイルを変え、そしてマーケティングの方法を変えてしまう可能性すらある。その影響力は単に携帯電話とそこから容易の連想できるインターネットのみならず、テレビ、新聞などあらゆるメディアに及ぶ。
メディアには大きくわけて2種類のものがあり、フロントエンドなものとバックエンドなものがある。フロントエンドとは主に見込客の獲得を扱う。
主たるメディアはいわゆるマスメディアである。広告、放送…すべて一方通行のものが多い。これにインタラクティブというものをくっつけようとしているのだが、技術的に可能であっても、何のためにやるのか?ということが問われている。地上波デジタルは国策で止められない流れだが、いったい何をすればいいのか?分からないままでいることが多い。
それはフロントエンドで考え方と完結させてしまっていることにある。一方、バックエンドは見込客の顧客化、そして顧客の維持(いわゆるCRM)に適しているもの。WEBサイトや、ダイレクトメールなど元々マーケティングの世界では主流と言われなかったものが多い。私のようなダイレクトマーケティング畑の人間はこちらを主流にやってきた。
さて、両者はこれまでなかなか相容れないものであった、相容れようとしても元々性格が異なるものなので隔たりが大きい。フロントエンドでは視聴率をはじめとする、リーチ(到達)が重視されるが、バックエンドの世界ではレスポンス率、コンバージョン(顧客転換)率など売れたかどうか?という実績が評価基準となる。
■2つの世界をつなげるもの、それがモバイル
モバイル端末がいったい何に効果を発揮するのかというと、このなかなか相容れなかった両エンドの世界をつなぐものであるからだ。
前回紹介した映像を呼び起こす印刷技術は何もダイレクトメールに限ったことではない。今1枚のチラシがあったとする(これらはフロントエンド)、そして商品によってはどうしても映像で伝えなければならないものがある。こうしたものを、モバイルを使って呼び出すのであれば、伝達の方法は変わる。今の買い手は確固たる商品情報を求めているため、映像で商品特性を確認できる、というのは買う側に安心感を与える要素となる。そのモバイルで行う映像配信は、単なる印刷技術の延長ではなく、来年から地上波デジタル放送を配信できるようになる。地上波デジタルといっても、実際には今ある放送帯域が3つに増える程度のこと以上のことは出来ない。オンデマンドの放送ができるわけでもない。
しかし…、これが個人の識別を可能にするモバイルで受信するとなるとどうなるのか?
地上波デジタルを見るためにチューナーをつけようとなんだろうと、テレビはやはりテレビ。その番組を誰が見ているのか?までは後の視聴率調査を待たなければ分からないであろう。しかしモバイル端末はパーソナルなもの。しかもその人はテレビ受像機など端末のある場所に動くのではなく、メディアがその人のいる場所にあわせるのだ。
このシリーズの最初の方で紹介しているとおり、ここで多くのマーケティングの専門家、あるいはプランナーにとってはこれまでの知識や経験を捨て去らなければならない、覚悟の日が訪れる可能性が出てくるのである。
多くの広告会社、印刷など販売促進にたずさわるひとびとは、AIDMAの法則というのを頼りにしている。AIDMAとは、Awareness(認知)Interest(興味) Desire(欲求) Memory(記憶) Action(行動)といった心理変容によって消費者は購入に至ると言うもの。
(※ちなみに、ダイレクトマーケティング畑の人間にとっては、Mは大量にメッセージを投下するマスマーケティングそのものを連想させるせいか、このMがどうもピンとこない。そのせいか、ダイレクトマーケティングの世界でAIDMAを使って説明をする人はあまりいない)
話を元に戻すと、テレビを見ながら気に入ったと思えばその場で銀行残高を確認して購入することだって出来る。今はどうしても決済方法はクレジットカードか代引き?という選択になるが、どちらの決済方法も必ずしも買う側の立場のものとは言えない。とすると、やはり銀行残高を確認して…ということになるのであろう。そうなると、AIDMAではなくてAA、認知した瞬間に、即行動!となる。しかもその行動をうながすために、商品に関する情報を映像という手段で流すことができるわけである。
地上波テレビについては私も今勉強中なので決して詳しいわけではない。もしかしたら間違った認識を持っているかもしれない。しかし3つチャンネルを持つことができる、ということはひとつのチャンネルはこれまでどおりの放送。もうひとつのチャンネルではモバイルと連動することを前提とした番組つくりを行うことだってできるはずだ。
ここで、「放送は放って送るもの」ではなくて流通チャネルへとなるし、広告も広く告げるものではなくて、パーソナルに告げるものとなる。携帯電話はどこへでも持ち歩くもの。その人の属性をあらかじめ企業側、あるいは放送局側が知っていれば、その人の属性に従って番組の予告をすれば良い。携帯電話が関わることで、デジタル放送が視聴者によってコントロールされるようなものになる。
こうして流通チャネルと化し、そして見る人が見たい番組、見たくない番組を選別するとなるとどうなるのか?もしかしたら視聴者は見たい番組をそれこそ、印刷物にすられている番組ガイドのバーコードで番組サンプルを呼び出して、そこで見る番組と見ない番組の確認をして、最新のDVD録画のように見る番組のスケジューリングをしてしまう。番組がデジタル化する、ということは番組の素材の一部のみを検索して複数の番組を短時間でレビューすることは可能なのか?(データベース的な発想をしてしまうとそれは自然)。そして見たい番組の中で気に入った商品が出てくればそこで買い物もしてしまう。
もちろん人間は情報に対して、向こうから勝手にやってくる受動的な欲求と、こちらから取りに行きたいという能動的な欲求とがある。しかし、「要らないものは要らない、要るものはとことん欲しい」というように人々が自己主張をしてしまうこの流れを巨大な影響力を持つマスメディアとて逃れることは出来ないであろう。
そしてこういう生活スタイルが出来上がってしまった場合、マスメディアはマスメディアとは言えなくなってしまう。また、テレビの視聴者は「視聴者」ではなく、そうしたサービスを利用する「顧客」となってしまう。そしてモバイル端末は自分が何かを実現するために必要とする情報を探し出す機器であり、かつそれを購入するための機器ともなる。つまりフロントエンドとバックエンドをつなぐものとなる。
「それってインターネットでもできるじゃないか」という声が聞こえそうだ。確かにそのとおりだが、インターネット(つまりPC)の普及率の伸びはここのところ鈍化している。また、必ずしも個々が持っているとは限らない。しかし携帯端末はほぼ個人ひとりひとりが持っている。PCでメールを打たない人も携帯電話ではメールを打つ。さらに、個人認証をするものとなりつつある携帯電話は持っていないと生活が出来ない状況にすらなりつつある。
そうするとその携帯電話も果たして携帯「電話」なのか? 同じようなことはテレビだけでなく、新聞など他のフロントメディアでも起きるかもしれない。
こうしたことはマスメディアや広告・販促に関わる人々からすると恐れ多いことかもしれない。しかし、「広告をやってどういう意味があるのか?」「販促をやってどういう意味があるのか?」という企業の疑念に対して答える方法ともいえるので、何も恐れることは無い。
いずれにしても、フロントエンドとバックエンドをつなぐ重要な役割を担うモバイル端末、どんなことができるのか?今後注目をしていきたいと思う。
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