2.社会保障制度の限界
健康保険といえば、日本には大きく分けて2つの医療保険が存在しています。ひとつは民間保険会社が扱う医療保険。もうひとつは、日本国籍を持ち、かつ日本に居住している以上必ず加入しなければいけない公的医療保険です。公的医療保険には、国民健康保険、政府管掌健康保険(せいふかんしょうけんこうほけん)、組合健康保険の3つがあります。ところがこれらの公的医療保険は、今や深刻な財政危機にあえいでいます。
財政危機の理由は、「保険料収入に対して支払う医療費支出が多すぎる」という極めてシンプルなものです。下のグラフ『国民医療費』をご覧ください。1990年には国民医療費は20.6兆円でした。ところが、国民医療費は毎年1兆円づつ増加し、1998年には約30兆円にもなっています。そのうちの9割強が公的負担分で支払われた分、つまり30兆円のほとんどが公的医療保険制度の負担であったわけです。ここで注目したいのが、1998年の30兆円のうち10.9兆円が老人医療費だという事実です。1990年には5.9兆円であったわけですから、8年間で2倍の伸びを示したことになります。厚生労働省によれば、日本の老人の1人当たり医療費は若年層の約4.8倍に達し、欧米諸国と比較しても突出しています。
『国民医療費の推移』

出典:平成11年度厚生白書
日本は少子高齢化が加速度的に進行しています。国立社会保障・人口問題研究所のデータによれば、2000年現在、65歳以上の高齢者人口は総人口の17.2%でした。ところが研究所では、20年後には65歳以上の高齢者人口は総人口の26.9%にまで上昇すると推計しています。これまで健康保険料を負担してきた若年層が減少し、健康保険を利用する機会が多い老人層が今後ますます増えるわけです。
そのうえ、景気の低迷で勤労者の収入が伸びず、入ってくる保険料は頭打ちです。赤字傾向が続けば当然保険料率がアップし、結果的に個人の負担が増加します。事実、来年4月からサラリーマンの医療費自己負担が現行の2割から3割に増えることになりました。ただでさえ収入が伸び悩んでいるこのご時世に、負担が1割も増えるというのはいまいましい話ですが、こうした公的健康保険制度の危機に対して国は単に保険料を値上げして支出(医療費)を減額するという対症療法に終始していることを考えれば、この先4割5割も当たり前!といったどこかの企業の宣伝文句みたいな世の中が来ることは容易に予想できます。
存続の危機にさらされているのは、健康保険だけではありません。年金制度も健康保険制度同様、少子高齢化のため破綻必至という危機的状況に陥っているのはもはや周知の事実です。知らないで未だに老後に年金を期待している人は、かなりのお気楽者と言わざるをえません。
少子高齢化+国際化+不況。この式がもたらすのは、もはや国や企業は個人の経済的危機に対するセイフティネットを張ってはくれないという事実です。それは社会保障だけでなくペイオフ解禁にも端的に現われています。
『人生』には落し穴がいっぱいあります。中でも落し穴でタチが悪いのは、経済的損失を伴う落し穴です。これまで日本人は、『人生』という道を上を向いて(儲けようとして)歩いてこれました。万が一落し穴のある場所に足を踏み入れても、国や企業のセーフティネットが張ってあったので落ちる心配がなかったからです。ところが、セーフティネットが取り払われつつある今は、落し穴に足を踏み入れた途端、お金に翻弄されるどん底生活へ一直線です。
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