(2/3)
A君は22才、営業マンとしてスタートして半年が経つ。しかし、一向に成績が上がらない。
そんな彼に上司のB課長は「君、営業成績を上げるには訪問回数を上げるしかないよ。そして、とにかく向こうの責任者というか社長に会うことだ。全てはそこだよ」と言う。
A君は「しかし、相手の会社に行っても、大半の場合は受付で断られてしまいます。だから困っているのです」と答える。
「だから君、なんでもバカ正直にいえば良いってもんじゃない。営業だ、セールスだと言うから簡単に断られる。相手の苗字ぐらいは事前に調べれば分かるのだから、相手の個人名を告げて、知人を装って、受付を突破する方法だってある。とにかく頑張ってこい」とB課長はハッパをかけた。
その日、A君はいつもの飛び込み営業で全くの新規の会社を訪問した。
受付にでた事務員に早速「○○さん、いらっしゃいますか? 知り合いなんです」といった具合にアプローチをかけた。
受付の事務員は社長の知り合いと早合点し「ハイ、2階の社長室にいますから、どうぞ」といってくれた。
「しめた、これで相手の社長に会える」とA君は二階の社長室に出向き、軽くノックした。
ややあって「どうぞ」と答えがあった。
A君はドアを開け中に入った。相手の社長はA君を見ると「どなたですか?」と怪訝そうな顔で聞いた。
すかさず彼は「ハイ、○○のAと申します。この度は弊社の新製品の紹介に上がりました。今回の製品は従来の製品、例えばですね、今、御社でお使いの○○に比べて格段に優れています。云々…」とまくし立てた。
相手の怪訝そうな顔はやがて渋面となり「誰に断って、入ってきた。それにしても、営業やセールスの方の直接訪問はお断りしている筈だが、君は何と言ってここまで来たのだ」と問い詰めた。
仕方なく、A君は「受付の事務の方に社長様の知り合いだと…」と答えた。
相手の社長は渋面をほどくと、穏やかに「そうか。しかし、君と僕は知り合いでも何でもない。君はウソを言った訳だ。そのウソつきの君の言うことを信用できるかね。それで営業が成功すると思うかい。営業というのは信用と信頼を構築し、その上でこそ成功するものだ。君は僕の部屋のドアを開けることには確かに成功した。しかし、そのせいで僕の胸の扉を固く閉じさせてしまった。目的は部屋のドアではなく僕の心のドアということに気づかないと営業成績は上がらないと思う。要するに君は手段と目的を混同しているのだ。さー、帰りなさい。そしてもう1度良く考えることだ」と諭すように言った。
A君は返す言葉もなく、ただ「失礼しました。すみません」と言う他はなかった。
今日の営業成績も0だった。A君はしかし、相手の社長の言葉にヒントがありそうな気がしてならなかった。すごく重要なキーワードをもらった気がした。
それは「相手の部屋のドアではなく、心のドア。そして相手の胸の扉を開け」という言葉だった。
←前のページへ 1/2/3 次のページへ→
|