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深い溜息をつきながらの帰り道、小さな古ぼけた電器店の妙な看板が目に入った。カレンダーか何かの裏にマーカーで手書きされたPOP(広告宣伝文)に「パソコン、使えるようになるまで面倒みます!」と書かれていた。
私はそのPOPに引きずられるようにその店に入っていった。そして、中にいた店主と思しき中年の男に「表のPOPは本当なのか。本当にパソコンが使えるまで面倒みてくれるのか」とまくしたてた。
すると、その男は「ハイ、使えるようになるまで面倒みますよ。パソコンなんてのは使えなきゃ意味も価値もないからね」と答えた。私はつかさず、「ヘー、ご主人、あんた見たところ俺と同年代くらいだけど、パソコンが出来るなんて大したものだね」とやや皮肉を込めて問い返した。
すると店主は「いや、私もパソコンはからっきし駄目でね。これから勉強しようと思っていたんですよ。でもね、倅が大学生でパソコンが大の得意でね。4年生だが、来春、卒業したらこの店をやると言うんです。それもパソコンの専門店にしたいと言うの。それじゃ、今のうち試しにやってみろという訳で、表のPOPを今しがた張り出したっていう訳。どうかね、お客さん、私と一緒にウチの倅に教わってみませんか。とにかく使えるようになるまで面倒みますよ」ときた。
ウーンと唸って、腕組みをした私は数分の後「分かった、それで全部でいくらになる」と聞いた。すると、店主は奥に向って「オーイ、お客さんだ。見積もりをしてくれ」と声をかけた。奥から出てきた倅を見ると、いかにもパソコンが分かっていそうで心強い。
彼はカタログを取り出しながら、「主にどんな事でパソコンを使いますか」と聞いてきた。
1時間近くもあれこれと話し合った後、「パソコン以外にもこれだけの用品、備品が必要です。用紙やインクリボン等の消耗品は僕が他所で買ってきます。ですからおおよそこの位の金額になります」と言いながら提示した額は例の「3つのノーの店」のほぼ倍近かった。
しかし、私は「分かった。今日は半金だけ置いていくから早速届けてくれ。残りは少しでも使えるという実感を得た時ということでどうだ」と聞いた。
すると、店主は倅の顔を見た、倅はウンと力強くうなずいた。店主は私の方に向き直ると「それで結構です」と笑顔で答えた。
数日後、私のデスクにパソコンが届いた。セッティングは全て倅がやってくれる。私と店主は見ているだけ、やがて、倅のパソコン講習が始まった。自分のパソコンで自分のデスク、初日から何となく文字だけは打てるようになった。これなら何とかなりそうだ。
そして半月も過ぎた頃、私は残金の全額を支払った。
このパソコンは如何にも高い買い物だったが、私にとってこんなに儲かった買い物は無い。パソコンを使うことで仕事の効率が3倍以上になったのだから。
「販売する者はその販売物のベストユーザーであることが肝心である」。要するに、その物(商品・製品)を最大限に使いこなせるようになり、使用のメリットが最大化する事がお客にとって最も関心が高いからだ。
営業マンのあなたが売ろうとする時、モノではなく使用メリットを売ると考えることが成約を得る近道である。
因みに、3つのノーの店は間もなく閉鎖し、その小さな電器店は今では大型ビルになっている。そして私は今でもその店の顧客である。
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